クルマという“機械”は年々進歩しています。衝突防止ブザーつきのクルマとか、一定の速度をオンしておけば、アクセルを調整しなくてもいいクルマなど、エレクトロニクス技術の導入によって、クルマの性能、便利さは飛躍的に向上しています。また、ついひと昔前までは、重いハンドルをいかにスムーズに手際よく操作するかがドライブ・テクニックの一つといわれて、それを自慢にするドライバーもいたほどですが、いまではパワー・ステアリングによって、それこそ子供でも小指一本で自在にハンドル操作が可能となっています。いまや、クルマという乗り物は、なぜ動くのか、加速できるのか、止まるのかといった、ややこしいメカのことは何も知らなくとも、誰でも安心して運転できる時代になったのです。ある免許とりたての女性から、「エンジンブレーキはどこについているのですか?」ときかれたことがあります。教習所には昼間しか通わなかったため、ライトのつけ方さえ知らなかったというドライバーもいるのです。計器の読み方一つとっても、ガソリンはどれくらい入っているか、スピードはどれくらい出ているかぐらいはわかるが、それ以外はサッパリという人も少なくないのです。それでも、クルマは動くのです。自動車教習所で運転免許さえ取れば、「どんな人」でもクルマを乗り回すことができるのです。アメリカのある自動車メーカーでは、チンパンジーでも運転できるクルマの研究に取り組んでいるほどです。この「どんな人でも」「チンパンジーでも……」という発想それ自体は、新技術の開発・改良の一つの方向性としていいと思うのですが、そうなると問題は、クルマとは一体何なのか、というクルマ哲学が確立していないと、クルマは単なる“走る凶器”となってしまいかねません。以前、ある雑誌の連載企画で、初心者から運転歴七、八年というドライバーのクルマに同乗する機会があったのですが、どの人にも共通していたことは、まことにワガママ、自分勝手な運転が堂々とまかり通っていたという点です。急ブレーキ、危ない追い越し、ムリな車線変更……と、世の中はすべて自分を中心にして回っている、そんな運転なのです。それでも事故を起こさないのは、周囲のクルマや歩行者が危険を未然に防いでくれたにすぎません。世の中のおかげで走らせてもらっているようなものです。しかし身勝手、自分本位の運転をつづけているかぎり、事故・トラブルを起こす、巻き込まれるのはさけられません。安全で快適なカーライフを楽しむためには、クルマとは一体何なのか、その辺のクルマ観の確立が先決です。走らせるだけなら、チンパンジーにもできることですから……。
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