あなたは医者なのですか、小説家なのですか、と質問されることがある。以前は、二足のワラジです、などと曖昧な返事をしていたのだが、最近ではきっぱりと、小説家です、と答えるようにしている。理由の1つは、医者で文章を書く人が増えてきているので、その人たちと一緒にされたくないからである。私が書いているのはあくまでも小説であって、医者のこぼれ話ではない。小説は創作であって作文ではない。しかし、そうは言っても、小説が作文より高級だと思っているわけではない。小説を書くにはある種の芸が必要であり、この芸を身につけられるかどうかは多分にその人の天性の資質によるのである。この資質を私は才能とは呼びたくない。なぜなら、こんな資質を持たない方がはるかに健全で明るい市民生活を営めると思うからである。私が小説家ですと言い張りたいのは、健全で明るい市民生活を営めなかった者のひがみと受け取ってもらって結構である。