エステサロンと契約をした時点から何かが起こったとしても、私はエステサロンに対して責任を追及することはできない。つまりたとえ痩せなかったとしても、法律上は泣き寝入りするしかないということだ。一瞬、とてつもない不安が押し寄せてきたが、信じるしかなかった。クレジット会社からの電話確認は、1分足らずで終わった。ただ住所と生年月日を確認しただけで、その他のことは聞かれなかった。こうして50万円のローンは成立した。私は店長から契約とクレジットローンの控えを受け取り、明日、初回のコース予約を入れてサロンをあとにした。エレベーターに乗り、点滅しながら左に移行していく階のボタンを目で追いながら、本当にこれだけでよかったのだろうかと思えてきた。来月から2万7400円ずつ、私の口座から引き落としになる。それが数年続くのだが、小口とはいえ、私にとっては大口だった。それがいとも簡単に通ったことには呆気に取られた。こんなに簡単にローンが組めると金額の重さは感じない。その場で感じるのは、来月の支払い分の2万7400円のことだけだった。万が一、支払いができなくなる状態など、想像もつかないでいる。毎日、借金を重ねる人たちと接していて、どうしてこんなに借金が膨れるのか不思議だった。しかしその人たちにも、こうしてはじめてローンを組んだときがあったのだ。どくりどくりと心臓を高鳴らせ、審査を待ったときが……。そして私と同じように、いとも簡単にローンが組めることを知ったのだろう。クレジット会社の控えには、契約してから8日以内なら契約を解除できる、クーリングオフという制度があると書かれていた。ただし入会金と開封商品、施術を行った分の金額は返済できないとなっていた。やはり引き返せないという思いが、背中にずしりとのしかかってくる。しかし、いつも接している多額の借金を重ねた人たちと私は違うのだ、と、必死に思うことにした。私は55万円で留まる。クリーム代だって入っているし、もう追加するものはないのだから、広告に載っていた女性と同様に、2か月くらいで見違えるほどの痩身をしてみせる。しかし「現金はなくても欲しい物が手に入る」システムは、人々をローン地獄に陥れる。それを目の当たりにしている私が、「ローンは簡単なのだ」という快感を得てしまった。しかも「夢をお金で買った」という満足感に浸ってしまったのだ。明日のことを考えるだけで、大げさだが人生が変わる気がしてくる。そして生まれ変わろうと思う。それに合わせたわけではないが、偶然なことに今日は私の誕生日でもあった。だから余計にそう思ったのかもしれない。エステに夢を抱き、施術を明日から迎える心理とはそんなものだと思う。きっと他の女性でもエステに行こうとする人は、みな新しい自分を手に入れたいに違いない。私はその晩、興奮し過ぎて眠れなかった。通いだしてから知らされる数々の真実に、驚きと悔しさを感じながらも、施術効果に快感を得る心地いい風が、動きのない空気をかき分けるように通り過ぎていく。葉を落としていた木々は新芽をつけはじめ、コンクリートの隙間に生えている雑草でさえ、青々しい色に姿を変えている。
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