翻訳学習者のほとんどは、不思議な点を学習の動機にしている。自宅でできる仕事を探したら、翻訳があったという。たぶん、十坪を超えるほどの書斎とそれ以上に広い書庫が自宅にあって、お手伝いさんが何人もいるほど恵まれた方なのだろう。翻訳は狭い自宅で内職としてできるほど簡単な仕事ではない。得意の語学力を活かした仕事をしたいという動機はもっと奇妙だ。まず、英語力を活かすのなら、もっと楽で収入の多い仕事がいくらでもある。国際機関や外資系企業に勤める方法もあるし、外国ではたらく方法もある。また、いまでは社会人ならだれでも英語を使いこなす必要があるといえるほどであり、英語を使いこなせること自体は自慢のタネになるようなものではない。それに、翻訳とは語学力を活かした仕事ではない。何よりも日本語でものを書く仕事である。この点についての誤解が翻訳学習者の間で根強いのは、たとえば、翻訳に近い仕事をあげてくださいと質問すればすぐにわかる。通訳という答えが圧倒的に多いはずだ。翻訳と通訳では新聞記者とテレビ局アナウンサーほどの違いがあることは認識されていない。